2008年4月28日月曜日

タペストリー・コンサベーション


先週またJRTGAの勉強会がありました。
今回のテーマは古いタペストリーのコンサベーション(保存、管理)です。
タペストリーというのは日本語で「つづれ織」といいます。
縦糸と横糸が1本ずつ交差している織り方で、縦糸はウール、横糸にはウールだけではなくシルクや金属糸などが使われました。
図柄はこの横糸が織り成すものです。
初めて知ったのですが、この縦糸が実際に掛けられると横になるそうです。
つまりタペストリーを織る時は、日本の絵巻を描く様に、横に増えていくという事。

英国には、何百年といった歴史のあるタペストリーが、多く残っています。
上の写真はハンプトン宮殿のグレートホールで、壁にかかっているのがタペストリーです。
これはヘンリー8世という王様がこのホールのために発注したもので450年以上前のものです。
普段私がガイドをする時には、作られた年代とか、目的、柄の内容を説明したりします。
あまり作り方まで触れることはなかったので、今回始めて知ったこともたくさんありました。

傷みが激しいタペストリーは修復したり、保存に努めたりするわけで、これをコンサベーション(Conservation)といいます。
コンサベーションの方法やポリシーは時代や国によってによって変わってきます。
英国では最近、復元するよりも、今の状態がこれ以上悪くならないように手を入れるというポリシーだそうです。
日本では復元がメインなので、「なるべくそのまま保存することに努力する」というのはまだまだ受け入れられていない考えですが、イギリスではすっかり定着しているそうです。

具体的な方法としては、ほころびなどによって出来た部分は裏布を当てて、これ以上バランスの悪い重さがタペストリーの一部にかかったりしないようにしたり、酸化を食い止めるために洗浄したり、また害虫が見つかったときには冷凍庫で一定期間保存して虫食いを防いだりするそうです。

私たちが観光地で見る、何気なく展示してある物も、陰では莫大な時間や努力が費やされているわけです。
そこまでしてオリジナルを展示するということは、本当に贅沢なことだと思います。
日本からのお客様からよく頂く質問のひとつが「ガイドさん、これ本物?」です。
聞かれるたびに「よっぽど普段贋物を見ているのかなぁ」と思ってしまいますが、きっとそういったイミではなくて、そんな貴重なものがケースの外に出ている感覚が日本で体験できないからだと思います。
今回のレクチャーを担当してくださった先生も、どこにどうやって保存しているかということでコンディションが全く違ってくるとおっしゃっていました。
タペストリーの傷みの原因のひとつは酸化だそうです。
色があせたり、弱くなったり、金属糸も錆びてきます。
これもひとつ勉強になったことですが、金属の糸って(針金みたいに)金属だけで作ると思っていたんですが違いました。
シルクのより糸に、金メッキのテープの薄いものを、らせん状に巻いて作ったんですって。
メッキの幅は1ミリにも満たないもので、厚みだってごくごく薄いものを巻いていたんです。
高価な金属糸はこの作業を繰り返して、たくさんの金が使われました。
金だけが使われたわけではなく、銀や銅なども使われました。
こういった技術は今はもう失われてしまっているそうです。
レクチャーに利用した色々な資料
レクチャーの先生、何と日本人です。
世界で一番権威のある、イギリスのタペストリーコンサベーションのスーパバイザーという肩書きです。

ここにはとても書ききれないけれど、とても勉強になった一日でした。

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