2012年9月15日土曜日

プロセルピーナ



ラファエル前派の展示会を紹介したついでに、ラファエル前派を代表する、ロゼッティーのこの絵も紹介しておきます。

ダンテ・ロゼッティーのプロセルピーナ(テイトブリテン、リンクします)

4月を英語で書くとAprilです。
これはラテン語の「Aperire」つまり、開くという意味があります。
冬の間、堅く閉ざされていた大地が開いて、命の芽が吹きはじめるということです。

ギリシャ神話には面白いお話がたくさんあります。

大地の女神は「デメテル」という名前で、たくさんの子供がいました。
彼女は、末娘のプロセルピーナを、特に可愛がっていました。(一人娘という説もあります)
ある時、このプロセルピーナが野原で花を摘んでいると、突然大地が裂けて、地下(死者の国)の神様、ハデスが飛び出してきました。
ひと目で彼女に恋をしたハデスは、彼女をさらって地下に連れて行ってしまいました。
娘がいなくなってしまったデメテルは大騒ぎ。
地上のあらゆる場所を探しましたが、プロセルピーナを見つけることはできませんでした。
デメテルの悲しみは大変なもので、それ以降、大地からは何の収穫も得ることはできません。

これには人間だけではなく、他の神様も困ってしまいました。
何とかして、プロセルピーナを探し出す努力をしないと、このままでは食べるものがなくなってしまいます。

しばらくすると、ニンフたちから、ハデスの仕業だと証言がありました。
そこで早速、彼の元に使いが出されます。
ところが、彼はプロセルピーナが気に入ったから結婚したいと言い出します。
それを聞いたデメテルは、なんとしてでも娘を取り返すと息巻いています。

とうとうゼウスが仲裁に入って
「もし、プロセルピーナが地下で何も食べていなければ、彼女はデメテルのもの。
もし、地下の食べ物を何か食べたなら、彼女はハデスのものになる」
という取り決めが交わされました。

ところが、彼女は誘惑に負けて、ハデスから受け取った、ざくろを一口食べてしまっていました。

取り決めどおりなら、彼女は永遠にハデスの元に住まなくてはいけません。
でもデメテルの気持ちも考えて、秋と冬はハデスの所に、春になったらデメテルのところに戻ることで、まとまりがつきました。

つまり、プロセルピーナは種(たね)の擬人化です。
4月に大地が開いて、それまで地下にいたプロセルピーナ(種)から芽が出ます。
それが、ぐんぐん育って、夏に花が咲きます。
その実が、秋には地面に戻っていくわけです。
ちなみに、プロセルピーナ(Proserpina)という言葉も、ラテン語の種(Species)からきています。



この絵のモデルは、ロゼッティーの友人、ウイリアム・モリスの奥様ジェーンです。
結婚前はロゼッティーのモデルだったジェーンですが、結婚後もロゼッティーとの仲がうわさされていました。
ジェーンは、プロセルピーナのように、こころの半分をロゼッティーのところで、残りの半分をモリスの庇護の下で過ごすのでしょうか。

この絵が描かれたのは、ロゼッティーがモリスの家「ケルムスコット」(リンクします)に滞在していた時です。
仕事に忙しいモリスと違い、自分を見つめてくれるロゼッティーに、ジェーンの心が傾いたとしても何の不思議もありません。
それでもヴィクトリア時代は、簡単に離婚などできる環境ではありませんでした。
ロゼッティーは、禁断の実を食べているジェーンをプロセルピーナに重ねることで、彼女の環境が「地下にとらわれた花嫁」だと言っているのです。


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2 件のコメント:

nekonasu ねこなす さんのコメント...

以前、モリス、ジェーン、ロゼッティーの関係を知ったときに、なんだか複雑な気分になりました。
モリスはジェーンに惚れていたのに、可哀想にと。
でも、ジェーンも罪作りっていうか、初めからロゼッティーと一緒になればよかったのに。
そう考えてみると、いつの時代も男と女の関係って同じですよね〜。(笑)

miki bartley さんのコメント...

ねこなすさん、こんにちは。
モリスとジェーンの関係は、映画なんかに出てきそう。昔からよくあるパターンなんでしょうね。
ずいぶん前に、日本の小説で「痴人の愛」という作品を読んだ時、男の人って利用されて捨てられるパターンよりは、一生裏切られながらも一緒にいる方がいいのかなぁ、なんて思ったりしました。
人それぞれだけど、私だったら絶対にいや。